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「おいで、おいで、そのままおいで」
午後の船上はそれぞれ気合いが入っている。ともかく2、3匹は釣らないと夕食はヌキ、昼の残りとファリーニャだけという事態に迫られているからだ。食ぺ物の執念はおそちしいぞ。
一一なに、直助に何か引っ掛かったみたいよ。木の枝じやないの。バシヤーン!「キャー桃ねた!今のは何だった?」「ツクナレだ!巻いて、巻いて」キリ、キリ、キリ、もう一息。でも、まだ.・まだ手にするまでは油断は禁物。「おいで、おいで、そのままおいで.」次男は輿奮しながらも慎重に手繰り寄せている。船端での最後の格闘が釣りの醸醐味だそうだが、ここは夕食のため安全第一にアルミールが素早くたも概にすくい取った。「やった、やった。僕だけ釣れた1」結局、タ闇迫る頃までにはツクナレ2匹、・黒ピラニア1匹の収獲、大漁とはいいがたいが、これでなんとかペッシャーダにはありつけそうだ。直助さまに感謝。

野宿だってかまわない
さて、きょうはどこに泊まろう。男だけのときには砂浜に野宿が常なのだそうだが、女、子供づれではそうもいくまい。アルミールが心当たりの家に声をかけてまわる。きょうはどこも留守らしく、断られてしまった。
巨大な燃えさかる溶岩のような太陽が、身を震わせて見るまに沈んでいく。赤道直下のアマゾンは朝夕6時を境に日の出、日の入があり、日没とともに急速に闇につつまれる。ほんの一瞬まえの夕日の輝きが嘘のようだ。そして、暗くなると電気のないこのあたりは、全くの真夜中の募囲気で静まりかえる。
一一野宿だってかまわないけど一一だんだん気弱になったころ、やっと泊めてくれそうなところがみつかって、暗闇のなかを上陸。しかし、案内されたところは、体育館ほどもあるバラックで屋根こそトタンで葺いてあるものの、四方は全くの吹きさらし、生活用品もいっさい置いてない。ここはマナウスに住んでいる大学の先生の持ち家だそうで、休みになると学生ともども合宿セミナーに使うとのこと。あまりの広さと何にもなさに呆然としてしまったが、ここならハンモソクを吊る場所はいくらでもあるし、気兼ねなく一晩すごすには最適かもしれない。
アマヅン河のダシ入り魚鍋
シャワー替わりに河で水浴びをしている子供たちの様子を見に下りていくと、アルミールが魚の下ごしらえをしていた。鱗をていねいにとってぶつ切りにしたツクナレに壇とレモンをたっぷりかけて身を結める。玉葱、トマト、ピーマン、ネギ、コリアンダーの野菜類は荒みじん切り。鋼の水は、もちろんアマヅン河のダシ入りである。コレラ騒ぎもあったけど、私たちがこれで死ぬくらいなら、この辺の人たちはとうの昔に死んでるはずだものね。
きょうの夕食は番関のかいあって豪華。メ・アルミール特製のペッシャーダ・黒ピラニアの塩焼き・骨付きサーロインのシュラスコ・キュウリのサラダ・ファリーニャ。
焚き火のまわりに車座になって、半ば手ずかみで食ぺている姿は、まるで山賊一家であるが、満足、群足。
夜半、稲妻とともに盛大なスコールがやってきた。トタン屋根が轟音をたてる、風にあおられてハンモックも揺れる。ヒエッー、風通しがよすぎて涼しいというより寒いよ。ジーンズに長袖、雨具も着込んでハンモックにもぐりこむと、いつしか雨音も眠りの中に消えてしまった。翌朝、まだ薄暗がりのなかでもう動き出したのは長男、ふだん起こすのにてこずる奴ほどこういう時は早起き。昨夜は暗くてよく見えなかったが、いまは眼下に180度、河が一望に広がりすばらしい桃望だ。一夜の仮寝の宿もこうして見るとなかなか素敵じゃないの。トタン屋根も朝日に輝いて見える。さて、きょうは私も釣るぞ。
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