5 さて、このようなタワーを建てて
何をしようというのか?
こんなタワーに大金をつぎこんで何の役に立つのか?とよく聞かれる。
まあ、ブラジルなら家一軒、買えるぐらいのカネがかかっとるからね。
で、この答えが案外難しい。むろん、「生物研究のため」といえばいいのだが、そんなこたえでは何も説明したことにならんな。
で、わしが「アグリアスという蝶々を研究するためです」という。
すると、まず「どんなチョウチョか?」とくる。

博物館にいっぱい展示してるんだが、ロクにみちゃおらんのだなあ。困ったもんだ。
で、まあ、そういう場合は、また6ドル払って博物館に入場してじっくりみてくれればいいのだが、最近の人間は、自分の目でみたことより、「情報」などいうアホなもんを信じたいらしい。だから「説明」を求める。実物が目の前にあっても、この「説明」というやつがないとナットクせんのだよ。
で、面倒だから、わしは「これは一頭...いや、その一匹、100万円です」という。すると、すぐわかる、いや、わかったような顔になる。
「へぇー」っと初めて感心したような顔をしてくれる。
だが、この「感心」は、チョウチョにではなく「100万円」に感心しておるだけなのじゃ。だから、この手合いの次の言葉は「なーるほど、このタワーがあればいくらでもとれますもんねーぇ」とさもしいことをいいおる。
アホが。ブラジルでは、特にここ熱帯雨林では蝶々は捕獲禁止である。わしの博物館といえども、みだりに捕れないのだ。もし、わしが、密猟などやろうものなら、わしが一生かけて築いてきた、この国での信用が一気になくなってしまうだろうが。
かくて、わしは本当はマトモで親切な人好きする人間なのだが、次第に無口になって、ムズカシイ顔をして、しかめっつらで、人付き合いの悪い様子を擬態するようになった。なぜなら、なるべくこの種のあほな質問を避けたいからの。
わしに限らず、世の中のムシ好きがみな、自分の趣味をあまりシロウトに言いたくないのは大体このような理由からである。世の人からみたら一文にもならんムシを集める、などちうのはまずキチガイのたぐいにしかおもわれん。そして、ムキになって説明しようとしたら大体、今さっきいうたようなことになってしまう。
しかし、ま、わざわざ高い通信費を掛けてホームページをのぞきにきてくれたのだから、アンタもムシ好きかもしれんから少しだけいうておこう。
「アグリアス」という蝶は、高度40メートル当たりを飛翔するのだ。だから
これを捕獲しようというのは至難のワザである。まあ、わしぐらい天才になると、ホンキで捕獲しようとおもえば、それなりに、なんとかしてしまう秘術の3つや4つはもっておるがね。
しかし、そのわしをもってしても、この蝶の生態、どうやって卵を産んで、どうやて育って、とかじゃが全然わからん。そりゃそうじゃろ、40メートルも伸び上がってみるわけにはいかんがね。
かくして、この蝶が3月6月9月12月と年に4回現れるのが、なぜか、どうしてかちゅうことすらわからん。いや、そもそも3月に現れるのが12月の卵なのか9月の卵なのかもわからん。
ん?んなことはどうでもええ、などという輩は、所詮縁無き衆生としかいいようがない。高名な登山家が「なんで山に登るのだ?」という愚問に「あるからだ」と答えたと同様、わしも説明のしようがないのだよ。
ただ、言えることは目の前に疑問があってそのわけがわからぬとき、知りたい、とおもう人間と「どうでもええ」という人間がいたら、わしは前者なのだよ。そして、前者こそが人間の科学や文明を不断に進歩させてきたのが歴史、というものであり、どうせ人間として生まれてきたら、わしゃ、前者に生まれてよかったとおもちょるわ。
ま、そんなわけで、これほど有名なチョウチョでわからん、という事自体おどろくべきことなのじゃ。世界のどんなえらい博士でもわからんのだよ。学位をいくつもっていようが、名前をきいたら卒倒するような大学者、碩学泰斗だろうが、大英博物館の研究員だろうが、スミソニアン博物館だろうが、かのドイツはマックスプランク研究所だろうが、わからんのだ。
その連中の鼻をあかしてやりたいのだよ、わしは。どうだ、まともな人間じゃろが?うん?
まあ、いうてみれば、最後に残ったヒマラヤの8000メートル処女峰のようなもんなのだ。
今回、このタワーがたった、ということはいわば、そのベースキャンプが設営できた、というてもええじゃろ。まあ、本当を言えば、来年の40メートルタワーがベースキャンプで、今回のはその試運転なのだが。まあ、それにしても、たいしたことなのだよ。
だから、世界のチョウチョキチガイはみな、固唾をのんでわしの「快挙」を待っておるのだよ。
うふふふふふひひひひひひひ、いっひっひっ.....
...おやおかえりかね?
Fin